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help リーダーに追加 RSS 佐々木譲 『うたう警官』  戦時情報戦小説の勇、あの佐々木譲の完全復活だ。

<<   作成日時 : 2007/05/29 12:31   >>

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2004年3月5日の北海道新聞より、道議会総務委員会で4日開かれた元道警釧路方面本部長に対する参考人質疑の一部である。
私が裏金づくりに直接タッチしたのは、一九六四年四月に配置された当時の北見方面本部刑事課が最初。階級は巡査部長だった。初めて領収書や関係書類を、命じられるままに偽造した。その後、退職した九五年まで十七カ所の所属(部署)を転勤したが、何らかの形で裏金づくりに関与し、一部を受け取り、その存在を知っていた。

この報道の示している状況を「うたう警官」と呼ぶらしい。「うたう」は内部の不祥事を「証言する、密告する」の意で自己防衛本能が際立つ警察組織にしてみれば「うたう警官」は裏切り者であり以後、つまはじきにされ警察官としての生命は断たれることになるようだ。

装丁帯には
北海道警察を舞台に描く、警察小説の金字塔!
とあるが、この事件以降もいろいろな組織的不祥事が頻発しているだけになるほどこれが警察の体質かとフィクションならではの「真実」へ切り込みはかなり鋭い。札幌市街地のディテールも加わり、その迫真性が「まさかそこまでは」から「もしかしたらこんなことまで」と増幅し、ある意味でかなりきわどい。当局からはにらまれかねない傑作の警察告発小説である。

追うも警官、逃げるのも警官。警官殺しの容疑をかけられた刑事に射殺命令が下された。捜査を外された有志たちによって、彼の潔白を証明するために極秘の捜査が始まるのだが………。
佐々木譲については第二次大戦を舞台にした『ベルリン飛行指令』 『エトロフ発緊急電』『ストックフォルムの密使』を読んでいる。これらは日本の作品では当時、珍しいジャンルの戦争冒険小説だった。読者にとっては史実の裏側にある「真実」へ好奇心をおおいにくすぐられ、また追いつ追われつのアクション・サスペンスに興奮させられた。そして人間性を抹殺する軍隊組織、国家機構にあって自己を貫徹する男たちの生き様、そこでなお人間であろうとする男たちの矜持が鮮烈であった。冒険小説であってしかも人間を描いていた。そこが戦争冒険小説として異色だった。『うたう警官』、しばらくご無沙汰していたが、これは時代、舞台こそ違えあの佐々木譲の完全復活である。

もし正義のためには警官のひとりやふたり死んでもかまわないってのが世間の常識なら、おれはそんな世間のためには警官をやっている気はないね
と正統ハードボイルドの味わいも冴えて、懐かしい。

管理社会といわれて久しいが傍目でうかがい知るところ警察組織ばかりではない、企業組織にとってもサラリーマンを締め付けるがんじがらめのルールはますます緊縛の度を加えているようだ。もとろん内部告発の制度化も進んでいる。窒息しかねないように思える。長いものには巻かれろ、逆らったらオチこぼれとつまらん時代になったもんだ。だからこそ逆に、この小説のような反骨精神、ヒューマニズム、同じ釜の飯を食ったもの同士の交誼に素直に感動できる読者層は思いのほか厚いのではないだろうか。

ただし、前掲の作品群のようなしっとりした情感はほとんどない。シリアスな警察批判だけでもない。残された時間は明朝までと、タイムリミット型のサスペンスが文字通りジェットコースターのスピードで走り出すから、ページをめくるのももどかしい。
巨大組織あげての捜査網がじりじりと彼らを追いつめる。まさに迫真の情報戦なのであるが、SFまがいの諜報網など登場せず、しかし、この情報戦にはミステリーとして読者を楽しませてくれる新機軸があって、しかもラストはクリント・イーストウッドが主演した映画『ガントレッド』を髣髴させる緊張が待ち受ける。エンタテインメントとしても完璧な仕上がりだった。

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