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zoom RSS 山本兼一 『いっしん虎徹』 またまた傑作時代小説にぶつかりました。

<<   作成日時 : 2007/08/13 20:03   >>

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虎徹といえば新撰組隊長近藤勇の斬殺剣だと講談本の知識はあった。江戸時代を代表する刀工であろう。長曽祢興里(おきさと)、もともと 越前国福井の甲冑鍛冶師であったが、自ら鍛えた当代随一の兜を一刀にして断ち切ることのできる日本刀を鍛えるべく、病床にある妻とともに江戸にでる。入道して古鉄、虎徹と称す。とくに切れ味の鋭いことでは全刀工中第一といわれ、江戸時代の刀剣書に高く評価されている。実際に「三ッ胴截断」「二ッ胴切落」「石灯籠切」などと切れ味を誇る添銘した作が数多く現存しているそうだ。
鉄とともに生きた伝説の刀鍛冶・虎徹の情熱と創意工夫が蘇る。

いかにも偏屈ものがこつこつと刀を鍛える地味なお話かと手にした書である。しかも本著の大半が作刀関連の叙述である。ところがそうではなかった。山の中の土にわずかに混じる砂鉄の選別から始まる。木炭を選び、たたら炉で吹いてヒにし、その塊を砕き、鍛え上げた鋼にする。さらに吟味した古鉄を混入するなど、土と木と火と水と風、温度と湿度に微妙に影響されながら、曲げて重ねて叩くの繰り返しである作刀の工程、なるほどこれが日本刀なのかと瞠目する詳細な書きっぷりに驚かされた。驚かされたのであって、専門用語の羅列と具体的なイメージがいっこうに浮かばない工程の記述に辟易したのではない。その細かいところは理解できないのだが、一振りの刀に命をかけた男のエネルギーの迸りそのものが著者に乗り移り文章になったかのような凄まじい筆力に圧倒されるのだ。

完成品の評価にしてもそうだ。
小板目のよく結んだ地金には、地沸(ぢにえ)がびっしりついて、冴えきっている。のたれに互(ぐ)の目交じりの刃紋には足が入っている。刃紋の縁の匂いが昨日の入道雲の縁のようにきりりと締まって輝いている。

と説明されてもチンプンカンプンなのだが、筆の勢いですね、なるほど命がけでようやく仕上げたまさに名刀であるとの気持ちにさせてもらえる。

さらに
一振りの刀に命をかけた刀鍛冶の波乱と葛藤の一代記
であることに間違いないのだが、読み出したらやめられないストーリーの展開は第一級のエンターテインメントである。敵討、ライバルとの争い、幕府中枢の権力闘争、幡随院長兵衛のエピソード、死人を重ね合わせての試し切りや生き胴試しの迫力、痛快な兜斬りから迫真の決闘シーンなどなど、見せ場はたっぷりある。これに夫婦情愛の変遷がかかわり、主人公の精神的成長が刀工の技の熟達に比例して語られる。とにかく贅沢に面白さが詰まっている。

ところで日本刀について、ある解説をみるとこうあった。
武器としての日本刀に対して強く求められるものは<折れず、曲がらず、よく切れる>の3点であって、互いに相反するこの要求に応ずる道として,折れぬためにはやわらかい心金(心鉄)を中に入れ、曲がらぬためには堅い皮金で外から包み、よく切れるためには刃先部にさらに一段と堅い鋼を別に加えているのである。
この作品でも同様なことが書かれているが名刀とはそれだけではない。
ただ斬るだけの刀なら美しい姿など必要ない
のであり工芸技術の粋としての美しさがなければならない。さらに
死生の哲理をきわめ、なおそのうえで、実際に人の生き死にをつかさどる道具であるならば
品格と尊厳が備わる。虎徹会心の作を見る病床の妻(まさに糟糠の妻なのだが)、
澄み切った青空のかなたに雷神がかくれているような………
と細めた目からひと筋を涙が頬をつたう。
所詮は人間のなす業である。木、火、土、金、水の五行を操れるなどと思うのが、そもそもの傲慢のかぎりだ。
との悟りにも似た心境に達する。武器は人殺しのためのものであるが、日本刀の刀工には原爆を生んだ西洋錬金術とは異質の精神構造があるのだと思う。

昼のバラエティ番組を見ていたら相撲協会が下した横綱朝青龍の処分にモンゴルの大統領が大いに怒ってなにやら国際問題になっているそうだけど、本当かしら。もともと相撲は神事でありスモウチャンピオンには品格と尊厳があるものよと、言ってもわからぬ方たちには本著を献上したらいいのではないか。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
メッセージありがとうございました。
『火天の城』も気になるところです。
さっと
2007/08/14 18:08
このブログの書評は非常に参考になります。
扱っている本の範囲も広くまた読ませていただきます。

現在は「火天の城」を読んでおります。

私のサイトからリンクをはらせていただきました。
もしご不満があるようでしたら連絡お願いします。

それでは失礼いたします。
やったくん
URL
2008/01/07 11:17
やったくんさんありがとうございます。
やはり「火天の城」は読みたいと思っています。
今後ともよろしくお願いします。
よっちゃん
2008/01/08 16:59

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