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help リーダーに追加 RSS 船戸与一 『満州国演義1 風の払暁』 圧倒的迫力で描かれる昭和激動史

<<   作成日時 : 2008/03/03 23:09   >>

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船戸与一の作品では『蝦夷地別件』、「滅びの残酷史」というべき最高傑作があったが、この第一巻、『蝦夷地別件』に匹敵する、あるいはこれを超えるかもしれないと期待させられる大長編の幕開けである。

大河ロマン「満州国演義」の第一巻「風の払暁」は中国大陸と日本を舞台にして昭和3〜4年という短い期間を描いている。400ページに近いボリュームの第一巻、いかに精密にこの年を描いているかがわかるであろう。
北伐を再開した蒋介石の北上に対し田中義一内閣は居留民保護を名分に第二次山東出兵を挙行、済南城を攻撃、占領する(済南事件)。そして蒋介石軍に追われ、北京から奉天に向かった軍閥・張作霖が関東軍高級参謀河本大作大佐の謀略により爆殺される(満州某重大事件)。張作霖の後継者・張学良の国民政府への帰順(易幟)。
国内では震災処理に端を発した金融恐慌の深刻化から四大財閥の独占が進み、中小商工業者の相次ぐ破綻・閉鎖によって労働争議が全国で勃発、失業者が溢れる。一方で改正治安維持法による左翼活動への弾圧強化と社会は騒然たる状況に追い込まれていた。田中内閣総辞職と浜口雄幸民政党内閣の成立。

そしてここから始まる昭和の動乱を生きることになる麻布の名家・敷島家の四兄弟が実にドラマチックに登場する。
次男・次郎。日本を捨てた馬賊の長である。ここでは母国の大陸侵略と関わりなしと颯爽として満州の地を駆けめぐるが………。四男・四郎。学生という立場に甘んじながら無政府主義に傾倒している。彼は特高警察の刑事・奥山貞雄の姦計に嵌められ、絶望の淵に立たされる。そして大陸へ………。長男・太郎。奉天日本領事館の参事官、関東軍の独走が国際世論に耐えられないと強い危惧を抱いている外務官僚であるが自分の立場にその無力感を隠せない。彼を取り込もうとするは関東軍特務機関の間垣徳三の狙いは………。三男・三郎。奉天独立守備隊に所属する真面目で武骨な軍人。彼は間垣徳三に持ちかけられ張作霖爆殺の片棒を担がされる。

あまた歴史上の人物が登場する。私の知っている事象、知らなかった事実の詳細がストーリーの節目節目で生き生きした背景になっている。そしてそれらすべてが四兄弟と密接にかかわり、彼等と一体になってドラマを構成する。だから緻密でありながら昭和史の解説に堕さず、昭和という脈動が感覚で伝わってくるようで、その迫力に圧倒される。歴史の事実は変えようがないのであるから、この第1巻の直ぐ先にあるのが満州事変の勃発だとわかっている。わかっていながらそこへ向かってじわりじわりと積み重ねられる事実経過の紆余曲折、その事実に押し流される人たちの直面するドラマの数々が、まるで先の読めないリアルタイムのように、読む人の緊張感が持続するのである。

装飾帯に 
そこには欲望のすべてがあった。望んだものは金銭か、権力か、それとも夢か
 とあって登場人物たち個人のギラギラした欲望の相克をさしていると誤解されやすいがそうではない。

一言でいえばテーマは「戦争と人間」、主人公は「昭和」そのものであると。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。『蝦夷地別件』すら読んでいないのに、この大作の登場。また楽しみが増えました。
それぞれ立場の違う四兄弟の配置は、あの時代を多角的に見られておもしろそうですね。
さっと
2008/03/08 09:11
この時代の肝心なところは教科書では書かれなかったので私が知ったのは松本清張『昭和史発掘』を読んだころ、大学生だったでしょうか。大河小説としては映画でしか見ませんでしたが五味川純平『戦争と人間』のイメージがあります。フィクションで読む本格の「昭和」です。
よっちゃん
2008/03/08 12:05

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