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help リーダーに追加 RSS 火坂雅志 『臥竜の天』 地方からの天下簒奪

<<   作成日時 : 2008/04/27 14:45   >>

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来年のNHK大河ドラマ、火坂雅志『天地人』は直江兼続を主人公にしている。伊達政宗はこの直江兼続のライバルだったようで火坂雅志は『天地人』を書きながらこの作品の構想を思いついたのだそうだ。臥竜が天を目指す。正宗の特異な地方性と微妙な時代性を詳細に描き出した傑作の歴史小説だ。
隻眼異相の武将、徳川幕府から一目置かれた雄藩大名。伊達男・伊達者という言葉、これは政宗が好んだ豪華絢爛の気風に由来するものだ。実はこの程度の知識しかなかった。これまで読んだ戦国期の歴史小説はたいがいが信長から秀吉をへて家康に至る天下制覇のプロセスとその周辺であった。天下を取るということは周囲を殲滅するか屈服させるかの力学であって親類縁者はもとより親子・兄弟の情愛や古くからのつきあい、しがらみなど情緒的な価値観を崩していく過程である。ところが天下争奪の戦場から遠く離れた奥州、出羽の領主たちは旧態依然にあって利害の対立があっても決定的な抗争に到るのを回避するぬるま湯体質にあった。火坂雅志は戦国乱世の激変を実感できないままにいる地縁、血縁共同体の中に傑出した戦国武将として伊達政宗を立たせ、稀有の洞察力でこの辺境の地から急速に進む中央集権化の実相を俯瞰させたのだ。地方から中央を見て地方反攻の立場から天下簒奪を企てる。端から天下取りを目論んだ今川、武田、信長、秀吉、家康たちのビジョンとはまるで異質なローカル性のねじれた設定が実に面白い。
政宗の霊廟、瑞鳳殿ホームページには
伊達政宗公は1567(永禄10)年米沢城に生まれました。東北南部を中心に諸勢力を平定し、世に「独眼竜政宗」の異名を轟かせました。江戸時代になると伊達62万石の藩祖として、産業・経済・文化の振興をはかりました
とある。
伊達政宗歴史館のホームページ
行動力・統率力・智略、時代を見抜く洞察力を持った武将。母に疎んぜられた不幸な幼少期と父の惨死を越えて、遂に奥州を制覇。徳川幕藩体制の確立で天下人になる夢が破れてからは、仙台藩繁栄の基礎を固めました。秀吉もその武勇を恐れ家康も賓客の礼をとった政宗の生涯
とある。
かくして郷土のガイドは大衆が期待する完璧な英雄像を政宗に託している。著者はこの郷土の英雄象を否定はしない。ただ加えてまったく別な人格を描き出しているところがこの作品の魅力だといえる。

伊達政宗が出羽米沢藩の家督を継いだのは若干18歳であった。天正12年、本能寺の変の2年後のことだ。正宗は中央から遠いこの地ですら巻き込まれるであろうと、来るべき天下争奪戦の激動を予見する。その前に奥州の覇者として君臨しておかねばならない。翌年、政宗は大内定綱の小手森城へ兵を進める。討伐には、降伏を認めなかった。殲滅(小手森城の撫で切り)。領主の殆ど親戚・縁戚同士という奥州では皆殺し戦術は前代未聞の大事件であり、その非道さに近隣の戦国大名は戦慄する。
奥州・出羽の領主たちから見ればまさに「鬼」であったろう。とにかく天下を取りたい一心の野心家である。味方にしていた者たちを平然と裏切るまでの謀略の人である。他人を踏み台にしてのしあがろうとする卑劣がある。人質になった父を見殺しにし、弟を自らの手で刺殺し、また母から毒を盛られるような非情な人物である。実利主義、功利主義、合理主義を徹底したのが正宗である。

にもかかわらず憎めないのは辺境から天下争奪を謀るにはこのぐらいのことを果断に実行できる人間でなければならず、そうでなければ早い時期に中央権力につぶされていただろうと想像できるからだ。
全国制覇を目論みながらも時代の激流はいつも彼より一歩先にあったようだ。乗り遅れた最後の戦国武将。特に後半が面白い。秀吉を倒すべく関白秀次に接近、あるいは幕府転覆のため家康の六男松平忠輝の擁立を画策、さらにはスペインと同盟して日本を乗っ取るという稀有壮大な構想などで中央政権に揺さぶりをかける。とにかくまだまだ安定というにはほど遠い、生まれたての統一国家である。この弱いところをとことんついて、さらなる撹乱をたくらみ続ける正宗の粘着体質とその行動力の描写にはグイグイと引き込まれる。

かなりのワルである。もしかしたら英雄というより梟雄に近いのではないか。なのに幕末まで続く仙台藩の基礎を築いたのだ。やはり郷土の英雄だ。なるほど伊達政宗とはこんな人物であったか、知らなかったなぁと、思いがけない発見に本を読むことの喜びをあらためて感じた次第です。

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