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zoom RSS 船戸与一 『満州国演義9 残夢の骸』 氏の訃報と同時に読了した畢生の大傑作

<<   作成日時 : 2015/04/23 12:51   >>

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画像満州国の誕生から崩壊まで。五族協和の夢が骸としてさらされるまで。侵略を美化する八紘一宇の驕りと欺瞞が完膚なきまでに叩きのめされるまで。「満州国演義」はここに完結した。3月には日本ミステリー大賞を受賞している。
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読み終えた昨日のこと、日経紙夕刊に病床にあっても元気な様子の船戸与一さんへのインタビュー記事が掲載されていた。
今回も北京や上海を書くつもりはなかった。辺境への関心は癖みたいなもの。大学時代は探検部に入っていて、あちこち出かけていたから。
結局9巻書き上げるまでに10年かかった。病気をしなければ6年ぐらいで終えていたはずだが。永遠に未完にするか、(もう少し巻数を少なく)しょぼしょぼまとめる手もあったと思うが、それはしなかった。俺の中で一番長くなった作品で『終わったな』とほっとする気持ちはある
そして今朝の訃報だった。(読売新聞)
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わたしは同い年で、氏の作品はほとんど読んでいる。闘病生活にあって『満州演義』を書き続けていた。その執念が実った。予約して購入した初版の最終巻を手にしたとき、ようやく終わったなと胸をなでおろした。それを読み終えたところだった。

大長編歴史小説だった。ドラマチックな昭和残酷史だった。他国民に対して侵略戦争が犯した罪業のあまりの深さ。日本国民へ強いた取り返しようのない犠牲。この無残で惨めな真実を戦後70周年に当たる今私たちは凝視しなければならないだろう。

前巻「南冥の雫」からは専ら日本海軍・陸軍の惨憺たる敗走の軌跡を4兄弟のそれぞれの視点で語り、政府、軍部中央の責任を具体的にあぶりだした。「南冥の雫」にある日本軍兵士の死は銃火に倒れたのでない。餓死と病死だった。兵士たちが死に際に洩らす言葉のほとんどが司令官や首相に対する怨嗟だったのだ。
最終巻「残夢の骸」ではポツダム宣言受諾前後の混乱を中心にさらに詳細に戦争責任者たちを実名でもって告発していく。
玉砕命令。「天皇陛下に万歳を高らかに唱え、ここに皇国の必勝を確信し、莞爾として悠久の大義に生きんとする将兵の声を伝う」………悠久の大義に生きよ、こんな風に美化された実質的全滅命令がいたるところにあった。
特攻命令。百田尚樹の『永遠の0』では互いに「靖国で逢おう」と笑顔で語りかけながら死地に赴く特攻隊員が描かれ、わたしはその美しく悲壮の死に涙したものだ。ところが志願だといわれるが実質は自爆命令だった。着陸の訓練もなく戦闘の装備もない飛行機に爆弾とともに乗せられた若い命は遺書の書き方をおそわり、辞世のひな形まで与えられたという。将師たちによって単なる消耗品とされたのだ。
一億総特攻の魁(さきがけ)となるべく戦艦大和の自滅があった。

さらに敗北による責任を回避しつづける大本営は迷走。「神洲不敗」を信奉する軍の強硬派はなおも本土決戦を掲げて、一億玉砕を唱えた。日本政府はだれもその狂気を止められなかったのだ。かくして日本は降伏のタイミングを逸した。本土空襲の激化や沖縄戦の激化、原子爆弾投下など、日本軍や連合軍の兵士だけでなく、日本やその支配下の国々の一般市民に甚大な惨禍をもたらすことになった。
それだけではない。ポツダム宣言受諾後に新たな地獄が待ち受けていた。

主人公敷島四兄弟のそれぞれの視点で描かれたドラマである。それぞれの夢と挫折が史実と重なって読者を圧倒する。この作品を読んでいて怒りの声を抑えられなくなるのだ。

船戸与一氏は第二巻「事変の夜」のあとがきで「小説は歴史の奴隷ではないが、歴史もまた小説の玩具ではない」と述べたことを解説してこう語っている。
歴史とは客観的と認定された事実の繋がりによって構成されているが、その事実関係の連鎖によって小説家の想像力が封殺され、単に事実をなぞるだけになってはならない。かと言って、小説家が脳裏に浮かんだみずからのストーリィのために事実関係を強引に捻じ曲げるような真似はすべきでない。認定された客観的と小説家の想像力。このふたつはたがいに補足しあいながら緊張感をもって対峙すべきである。
本物の歴史小説家である氏の生命線がこれであった。
本物の歴史小説家の手になる完璧なドラマだ。
「フィクションこそが真実を語る」のだとわたしは思っている。
船戸与一氏の最高傑作であり、後世に残る珠玉の
名作である。

その死を惜しみ深く哀悼の意を捧げます。

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