ドン・ウィンズロウ 『フランキー・マシーンの冬』 『犬の力』とは趣を変えた初老の殺し屋の痛快活劇譚

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2006年、サンディエゴ。フランク・マシアーノの一日が始まる。
分秒刻みに動く精密機械のようなスケジュールなのだが、それが彼の美学で「フランク流に生きるのは骨が折れる」などと嘯きながら、悠々自適人、趣味と仕事が一体となったゆとりのある63歳の日常なのだ。釣り人のための「餌屋のフランク」。クラシックスタイルの大型サーフボードで定年近いFBI捜査官ら初老の仲間たちとで波乗りを楽しむ。今の若い者ときたら………、情理が通じていた古きよき時代を懐かしみながら。釣り餌屋、リネンレンタル、魚介販売、不動産管理と四つの仕事をこなし、別れた妻と娘とは気心を知り合った同士でさらにガールフレンドとの付き合いもある。料理、コーヒー、音楽、水泳、船舶操縦………なにをやっても一流のスタイリッシュな毎日。若者の喧嘩にはにらみをきかす仲裁役であり、子供たちには人気のあるこの町の名物男だ。

冒頭、流れるように語られる主人公の日がな一日、なんとまあ魅力的な男ではないか。同じ年代だから、定年後の生活としてはうらやましい限りだ。
たとえ彼が「フランキー・マシーン」と呼ばれた超一流のマフィアの殺し屋であるにしても。

古いしがらみからやむをえず強談判の仕事を引き受けたはいいが、これが彼を消そうとするものの罠であった。たちまちハードな死闘が始まった。やっぱり強いや。現役を退きながら、今の安逸に未練を残さず好々爺から一足飛びに殺人マシーンへ変身するこの鋭い場面展開がいい
。何者かの罠にはまり姿をくらました伝説の凄腕『フランキー・マシーン』をマフィアの刺客がつけねらう。20年来の友人、連邦捜査官のデイブ・ハンセンも重要証人の殺害容疑でフランクの逮捕状を取った。じりじりと包囲網が狭まる中で、フラッシュバックする記憶をふるいにかけるフランク。誰がなぜ彼を消そうとしているのか。だが容疑者のリストはあまりに長く、残された時間は尽き果てようとしていた………。
彼が実行した過去の数々の殺しと今彼を狙う刺客との戦いを交互に、息継ぐ間もないアクションの連続を楽しむ。前作『犬の力』は国家間の重苦しい陰謀劇であったが、この作品は男伊達ヒーローの胸のすく冒険活劇と言ってよい。また、サンディエゴという町のマフィアの戦後史。地元の組織が全国組織のマフィアに統合され、彼らが次々と消され、生き残ったものたちもみな卑劣な密告者に落ちていくプロセスにも興味が引かれた。

どうしても日本流儀でいいたいところがある。任侠道に生きる古いタイプの一匹狼とこのごろのさばる仁義無きヤクザの壮絶戦であり、バックグランドミュージックとしては鶴田浩二『傷だらけの人生』がピッタリだな。ラストだって高倉健に菅原文太と藤純子の助っ人が寄り添う粋な殴りこみです。
古い奴だとお思いでしょうが、古い奴こそ新しいものを欲しがるもんでございます。
どこに新しいものがございましょう。
生れた土地は荒れ放題、今の世の中、右も左も真っ暗闇じゃござんせんか。

何から何まで 真っ暗闇よ
筋の通らぬ ことばかり
右を向いても 左を見ても
馬鹿と阿呆(あほう)の 絡み合い
どこに男の 夢がある。
かつてのクィネル『クリーシー・シリ-ズ』S・ハンター『スワッガー・シリーズ』と同様、連続バトルをゲーム感覚で楽しむにはもってこいの一作である。


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