辻村深月 『島はぼくらと』 きらめく青春が夢みた離島再生のデザイン

画像1年以上も前になるが直木賞受賞作『鍵のない夢を見る』を読んだ。人間に潜む悪意や差別、嫉妬、異常、暴力などノワールな内面を今風に軽く、冗舌に描いたところが評価されたのかもしれないが、わたしのような年寄りには、夢と現実の区別がつかないバカモノたちの救いのない話で気分を悪くしただけだった。
ところが今回の『島はぼくらと』は「まぶしい故郷の物語」で地域再生がひとつのテーマでもあると言われている。過疎地の活性化や被災地の復興をテーマにしていれば、今はどうしても東日本大震災の現実に思いを致し、言うは易く行うは難しの深刻な社会問題であるだけに、若い女性のセンスがこれとどう向き合ったのかを見詰めたいと手に取った。
瀬戸内海の小さな島、冴島(さえじま)。母と祖母の女三代で暮らす伸びやかな少女・朱里(あかり)。美人でオシャレで気が強い網元の一人娘・衣花(きぬか)。 2歳の頃、父と一緒に東京からやってきた源樹(げんき)。熱心な演劇部員なのになかなか練習に参加できない新(あらた)。島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。
『幻の脚本』の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。故郷を巣立つ前に知った大切なこと。
島の子はいつか本土に渡る。17歳。ともに過ごせる最後の季節。
旅立ちの日は、もうすぐ。別れるときは笑顔でいよう。」


少女漫画風な表紙を見た瞬間にびっくり。漁業と農業が生業の年寄りが多い過疎村にしてはなんとまぁ都会的な美男美女、お洒落でカッコイイ高校生なんだろう。わたしは今でも時々茨城や栃木の農家に行くことがあるが、その印象からすると瀬戸内離島のファッションは段違いに進んでいる!

卒業で離れ離れになる友と残された一年、ちょっとした探偵ごっこやドキドキの冒険をやってみる。冴島の生活基盤の仕組み、因習とIターン組の緊張関係、古くからの住民同士にあるもやもやした人間関係などにちょっとだけ深入りしてみた。すると今まで知らなかったことだが、新・旧のベクトルを巧みに調和させたこの村落共同体のよさが見えてきた。それはキラキラとしてまぶしい小さな故郷であった。故郷という共通の土壌に結ばれた固い絆よ、永遠なれ………と、明るく健やかな高校生四人のこころの成長を描いた甘く切なくほろ苦い青春賛歌である。
昔からあった青春ドラマと異質なところで、著者は旧弊な村落共同体にかなりの変化球を投じてみたのだ。「Iターン」と呼ばれる都会からの移住者との共存共栄である。冴島では暮らし向きを改善するために、村ぐるみで失意のIターンを積極的に受け入れ、新しいコミュニティ形成に向けて着々と成果を上げている………その新旧住民たちの活躍に温かい視線を向けているのだ。

ここでは重要な役割を与えられているのだが、かなり一般化しているらしい「Iターン」という言葉をわたしは知らなかった。

そして読後にこの「解説」で確認した
都会出身者が地方に移り、定住することを『Iターン』という。出身地に戻ることが『Uターン』で、地方出身者がいったん都会に出たあと別の地方に移住することを『Jターン』と呼ぶ。過疎化に危機感を募らせた地方自治体が、定年退職を迎える団塊の世代を狙いIターン誘致に力を入れ始めた。和歌山県は市町村に相談員をおくなどの取り組みを進め、2006年から今年7月までに410人の移住者を支援した。田舎暮らし希望者の支援をするNPO「ふるさと回帰支援センター」(東京都中央区)によると、Iターンを含む田舎暮らしの相談件数は07年の2151件から、10年には6167件と約3倍。不況や若者の非正規雇用の増大などが背景にあるとみられる。( 2011-09-25 朝日新聞 朝刊 1社会 )
この解説では一つの制度システムとして国政、地方行政が関与しているようだ。実際、ここ冴島で大活躍をするシングルマザーのヨシノさん。国土交通省の離島支援課の紹介で(NPOであろう)「プロセスネット」から派遣され、島民達と生活をともにしながら、Iターン移住者と離島経済との共生に貢献している。肩書きは「地域活性デザイナー」。わたしはてっきり著者の想像上のキャラクターかと思い込んでいたら、「ヨシノさん」はなるほどこの「解説」どおりに実体があったのだ。
ただし10年以上も前の概念でこういう制度がいまどうなっているのかがよくわからない。

もうひとつ知らないことでびっくりしたことがある。どういう人たちがIターンをするのかということなのだが、子育てしながらの夫婦、夫婦ふたりもの、独身者、シングルマザーらなのだが、どうやら圧倒的に多いのがシングルマザーらしい。しかも過去にウジウジしない女性たちなのだ。

青春小説だからあまり理屈で文句をつけてはいけないのだが、サラリーマン卒業生としては、離島移住の動機、共生が成り立ちうる生活基盤や環境整備、旧住民との摩擦、過去ののしがらみ等々詳しく知りたいところである。移住者ひとりひとりにドラマがあるはずである。ところが著者はこの肝心なところをあっさりとしか書いていない。

高校も病院もない冴島は過疎、離島、被災地であり、古い因習、村長のエゴ、網主という身分の権威がまだまだ残るところだ。(私の家内によれば、たとえ都会に嫌気をさしたシングルマザーでも子育てを思えば、、高校もなく病院もないところにはその他の環境が良くてもわざわざ移住はしないそうだ。)人口3000人。3.3キロメートル四方の火山島だから生活面積はいっそう狭い。高齢者ばかりの過疎化進行形である。特別な産業はないし観光資源も乏しいはずだ。
にもかかわらず、冴島ではIターン移住者の労働力を加えて新たな拡大再生産のサイクルが生まれようとしている。それはお爺ちゃんお婆ちゃんお父さんお母さんたちの生活の知恵と協同、Iターン者の高い自立精神、「ヨシノさん」の誠意による二者の連携が見事に結実した成果である。財政支援などなくとも、住民が頑張ればヤレルゾ!
本当かしら?と、まもなく古希をむかえるわたしにしてみれば、感動と元気がもらえる物語!めでたし、めでたし!!!………という確信には至らないのだ。

戦後まもなくこの島の火山が爆発した。島民は本州への疎開を余儀なくされた。被災民としての苦難と再生を経験した祖父母たち。故郷から引き裂かれ、友達とも離れ離れになった哀しみをいま、若者たちは知ることになる……と、それなりの感動的シーンが用意されている。しかし、瀬戸内海で火山が爆発した島はないという事実を知っていれば、しらけてしまうのは………わたしばかりだろうか。
著者は過疎地・被災地再生の「現実」を描いたというよりは、こうあってほしいとの「夢」を架空の空間にデザインしたのではないだろうか。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

藍色
2015年01月23日 15:50
読みやすくて面白かったです。
趣味として本を読み始めた人、これから読もうとしている方々に
ぴったりの小説だと思います。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。

この記事へのトラックバック

  • 「島はぼくらと」辻村深月

    Excerpt: 母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹。熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新。.. Weblog: 粋な提案 racked: 2015-01-23 15:34